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[2001/07/12] 怖かった話・無人島編

 次の怖かった思い出は無人島においてです。

 もう10年ほど前になるでしょうか。カヌーを始めてしばらくしてから海をツーリングできるシーカヤックが欲しくなり、そのシーカヤックで初めてツアーに出かけたのがその無人島でした。
  その無人島は某所の本土から2kmほど沖合の小さな無人島です。
  当時は無性に無人島に渡ってキャンプをしたくてたまらず、地図で島があるのを確認してあまり調べもせずに出かけてしまったのですが、もしかするとそれは誰かの所有物かも知れないということで(^^;、一応無人島の場所は内緒にさせていただきます。

  出かけたのはそう、ちょうど秋も深まった11月頃でした。
  1日目は本当に良い天気で、ほとんど風もなく暖かい日でした。海もほとんど波もなく、まるで鏡のようでした。
  海岸に車を停めて、車に載せていたシーカヤックを降ろし、準備にかかります。
  さすがに単独行ということで、途中で転覆でもしたらかなり危険ということで、転覆に備えての道具とかも用意していきました。転覆してもカヌーの中に水があまり入らないようにする道具、転覆した後ひとりでまたフネに乗り込む時に使う道具、そして最悪、長時間冷たい海水に落ちていても生きていれるように完全防水のスーツも。
  用意万端でいよいよ鏡のような海に一人でこぎ出していきます。
  目の前に島が見えているし、波も風もほとんどありませんでしたので、怖いという思いは全くありませんでした。少なくとも行きだけは(^^;

  島までは約30分で到着。着いてしまうとなんかあっけないものです。
  その島は周囲500mほどの小さな島で、真ん中に15mほどの小さな山もあります。
  小さい石がごろごろしている海岸に上陸し、まずは島を1周散歩してみます。海岸沿いには一応歩道?があって人も頻繁に来ている形跡はありましたが、この時は誰もいないようでした。あまりに小さい島ゆえ、動物も特にいないようでした。
  もう夕暮れが近づいていましたので、カヌーの中からキャンプ道具を取りだしてその歩道らしきところで、風よけとなりそうなブロックの裏側にテントを張ります。
  それにしても海に沈んでいく夕日は本当にきれいでした。ビールを片手に1時間くらいずーっと眺めていたような気がします。

 さて夕日が沈んですっかり暗くなり、簡単な食事も終えたのでそろそろ眠ろうかとしていた夜9時頃のことでした。
  ふと外でなにか音がします。
  「からん、からん」
  なんだろうと思って耳を澄ますと、どうもその音は外においておいたビールの空き缶がぶつかりあってなっている音のようでした。
  おかしいなあ、風もそんなに無い様だし、もしかすると昼間は隠れていた動物が出てきて空き缶で遊んでいるのかなとも思い、テントの中から「こらー!」と大声を何度か出してみましたが、特に何かが逃げていく雰囲気はなく、相変わらず「からん、からん」という音が時々してきます。
  この段階でさすがにかなり怖くなり、テントから顔を出して様子を見てみる勇気も無くなり、シュラフにもぐり込んで護身用のサバイバルナイフを片手にずーっと耳を押さえていましたが、その音は結局夜半過ぎまで時々聞こえていました。

 さて次の日の早朝、ものすごい音で目を覚ましました。
  周りはもう明るくなっていましたのでテントから顔を出してみると、なんと海は大荒れでものすごい風と波の音でした。 15m位の暴風が吹き荒れ、海も一面白波が立って波も1.5mから2mはありそうです。
  昨日出発する前にあまり天気図を確認してこなかった事を悔やみましたが、もう後の祭りです。
  ふと、そう言えば昨夜の音は何だったんだろうとビールの空き缶をおいた場所まで行ってみました。そこには特に自分の足跡以外の後はなく、どうやら風よけのブロックで集められた風がちょうどビールの空き缶にあたり、ちょっとした風でそれを揺らしていたようです。自分のいたテントはブロックの影で風がほとんど来なかったようです。
  これで昨夜の音の原因は分かりました。

  さて次はこの大荒れの天気をどうするかです。
  このまま嵐がおさまるまで待つという事も考えましたが、今日も明日もずーっと荒れていたらどうしよう、食料もそんなに余裕がないし、またこれからもっと大荒れの天気になる可能性も捨てきれないということで、覚悟を決めてその大荒れの海にこぎ出すことにしました。
  決死の思いでこぎ出します。 まさに自分の腕だけが頼りで、他に頼るものは何もありません。
  カヌーの先端にぶちあった波のしぶきがびしゃっという感じで顔まで飛んできます。でも顔を手でぬぐう余裕など無く、もうとにかく流される前に岸までたどり着かなければという思いだけで必死でこいでいました。
  波は1.5mから2mはあったでしょうか。波と波の間にはいると、ちょうど波の壁に挟まれたような感じでした。その波が一気に崩れてくるとこれはもうひとたまりもありませんでしたが、うねりだけですみましたので小さなシーカヤックでもなんとかなりました。

 どのくらい漕いでいたでしょうか。 岸が近づき、小さな入り江に入ったとたん、ぴたっと風はほとんど止みました。 本当にびっくりするくらいおだやかになり、それからは10分くらいでなんとか無事出発した場所に戻ってくることが出来ました。
  上陸してふと腕時計を見ると、向こうの島を出発してからまだ25分くらいしか経っていませんでした。自分では1時間くらい格闘していた様な感覚がありましたので、ちょっと意外でした。もう必死で漕いだ分、帰りの方が速かった様です。
  翌日の新聞を見ると、その日の朝にちょうど発達中の前線が日本を通過して大荒れとなり、あの島の近くでも何人ものウインドサーファーが流されたという記事が載っていました。